遊山メンバー
ユウ
渓流釣りをしていると、不思議なくらいサイズの良い魚が出る場所があります。
大きな岩の裏。
深い淵のえぐれ。
落ち込みの脇。
流れがぶつかったあとに、少しだけ緩くなる場所。
そこへルアーが綺麗に入って、
「ゴンッ!」
と良い魚が出る。
その一方で、すぐ横の岸際や浅い場所では小さなヤマメやイワナが走り回っている。
こんな場面を見ると、
「川の中にも、大きい魚が陣取る良い場所みたいなものがあるのでは?」
と考えたくなりますよね。
釣り人同士だと、こういう魚を「ボス」と呼んだり、「一等地を取っている」なんて表現することもあります。
僕もこの言い方はけっこう好きです(笑)。
ただ、本当に川の中が人間社会のようなピラミッド型の階級社会になっているかというと、そこまで単純ではありません。
魚のサイズだけではなく、流れ、水深、隠れ場所、季節、魚種、ほかの魚の存在など、いろいろな条件が関係しています。
この記事では、ヤマメ・イワナに魚同士の競争やナワバリ行動はあるのか、大きな魚と小さな魚で使う場所がどう変わるのかを、実際の観察研究も交えながら釣り人目線で見ていきます。
ヤマメ・イワナに「ナワバリ」はある?
まず気になるのがここですよね。
ヤマメやイワナなどのサケ科魚類では、ほかの個体を追い払うような攻撃行動や、魚同士の優劣・競争が観察されています。
特に分かりやすいのが産卵期です。
ヤマメの産卵行動を観察した研究では、オスの集団に体サイズと関係した順位が見られ、大きなオスがメスの近くに位置し、近づいてくる小さなオスを追い払う行動が確認されています。
なので、
「渓流魚には魚同士の力関係なんてない」
というわけではありません。
ただし、これをそのまま一年中の川へ当てはめて、
「一番大きいボスが一等地を支配し、二番手、三番手と順位が完全に決まっている」
と考えるのも少し違います。
季節や魚の成長段階、周囲の環境によって、魚同士の関係も変わります。
なのでこの記事では、「階級社会」というより、限られた良い場所をめぐって競争が起こることがあるくらいのイメージで見ていきます。
そもそも魚にとっての「良い場所」ってどこ?
釣り人から見る一等地と、魚から見る一等地は少し違います。
僕らなら、
「景色最高!」
「ここでコーヒー飲みたい!」
となる場所でも、魚には関係ありません(笑)。
魚が長く使いやすい場所を考えると、大きくは、
- 流れてくるエサへ反応しやすい
- 流れが強すぎず定位しやすい
- 必要なときに身を隠せる
- 魚が身体を置けるだけの水深がある
といった条件が関係してきます。
実際、山地河川でイワナの採餌場所を調べた研究では、調査されたイワナは川の中を均等に使っていたわけではありません。
比較的深く、流れが緩めの場所がよく使われ、条件の良い採餌場所の多くは淵に分布していました。
つまり、
「魚にとって使いやすい場所は川のどこにでも同じようにあるわけではない」
ということです。
大きな魚がいると、小さな魚は場所を変えることがある
ここが今回かなり面白いところです。
山の小さな支流で行われた観察実験では、イワナやヤマメの稚魚だけを入れた状態と、そこへ成魚を加えた状態で行動を比較しています。
稚魚だけのときは、比較的広い範囲を使っていました。
ところが成魚がいると、稚魚の定位場所は岸に近い、より浅く流れの緩い場所へ移りました。
さらに、行動する範囲やエサを取る頻度も小さくなっています。
これ、釣り人からするとかなり興味深いですよね。
「大きな岩の裏から良い魚が出て、その横の浅場には小さい魚がいる」
という経験をしたとしても、それを全部「ボスが小魚を追い出した!」と決めつけることはできません。
でも、大きな成魚の存在によって小さな魚が使う場所が変わること自体は、実際に確認されているわけです。
じゃあ「一番大きい魚が一番良い場所にいる」は正解?
ここは、半分当たっているようで、半分注意が必要なところです。
魚同士の競争では体の大きさが有利に働く場面があります。
山地河川のアマゴを調べた研究でも、同じ淵の中で大きな個体ほど成長が良かったことから、魚同士の競争によって成長差が広がる可能性が示されています。
一方で、
「一番大きな魚=必ずそのポイントで最も良い場所にいる」
という公式があるわけではありません。
魚が使う場所は、
- 季節
- 水温
- 水量
- 時間帯
- 隠れ場所
- エサの流れ方
- ほかの魚の存在
などでも変わります。
さらにヤマメとイワナでも、同じ条件をまったく同じように使うとは限りません。
だから「大物は絶対ここ!」ではなく、
「ここは良い魚が使いやすそうだな」
という予想に使うくらいが、釣りではちょうどいいと思います。
大きい魚と小さい魚で、使いやすい場所は少し違う
釣りをしていると、大きめのヤマメやイワナは岩陰や淵から出てきて、小さな魚は岸際や浅い場所にいるように感じることがあります。
これには、魚同士の競争だけでなく、魚のサイズによって使いやすい場所が違うことも関係しています。
先ほど紹介した観察実験では、イワナやヤマメの稚魚だけがいるときと比べて、成魚がいると稚魚が岸に近い浅くて流れの緩い場所を使うようになりました。
つまり、大きな魚の存在によって小さな魚の居場所が変わることは実際にあります。
ただ、それだけが理由ではありません。
小さな魚にとっては、浅い岸際や細い流れの方が身体を置きやすかったり、大きな魚とは違う場所を利用しやすかったりすることもあります。
なので、
「大きい魚が小さい魚を全部浅瀬へ追い出している」
というより、
魚同士の競争もありつつ、それぞれのサイズに合った場所を使い分けている。
くらいに考えるのが分かりやすいです。
釣り人目線で見ると、これが面白いところなんですよね。
岸際の浅い流れで小さなヤマメが何匹も反応したあと、少し深い岩裏へルアーを入れたら急に良いサイズが出てくる。
そんな時は、
「やっぱりそこに良いのいたか!」
ってなります(笑)。
もちろん毎回そうなるわけではありませんが、魚のサイズによって居場所が変わる可能性を頭に入れておくと、川の見方がひとつ増えます。
「ボスを釣ったら二番手がすぐ入る」は決めつけない
釣り人の間では、こんな話もあります。
「良い魚を抜いたら、次の魚がその場所へ入ってくる」
これは感覚としては分かります。
良い隠れ場所や採餌場所そのものは、魚がいなくなっても残りますからね。
なので、以前大きな魚を釣ったポイントを別の日にもう一度狙うこと自体は全然ありだと思います。
僕も「ここ前に良いの出たんだよな」と思えば、また投げます(笑)。
ただし、
「ボスを釣る → 数時間後に二番手が昇格 → その場所へ移動する」
という固定された仕組みが確認されているわけではありません。
別の魚がその場所を使うようになるとしても、
- 周辺にどれだけ魚がいるか
- 魚がどのくらい移動するか
- 季節
- 水量や増水
- 放流や自然繁殖の状況
などで変わります。
なので、
「良い場所ならまた魚が入る可能性はある。いつかは分からない」
くらいで覚えておけば十分です。
釣りでは「一番良さそうな場所」を先に狙うのはあり
では、この話を実際の渓流ルアーへどう使うか。
僕ならポイントへ着いたとき、まず全体を見ます。
どこが一番深い?
どこに岩がある?
速い流れと緩い流れの境目はどこ?
倒木やえぐれはある?
その中から、
「もし今日ここに良い魚がいるなら、どこにいる?」
と考えます。
これ、かなり楽しいです。
そして、自分が狙いたい場所が決まったら、そこへどう近づくかを考えます。
手前をジャブジャブ歩いてから奥へ投げるより、まだ自分の存在を大きく出していない状態で狙いたい場所へルアーを入れた方がいい場面はあります。
ただし、
「必ず一等地から投げなければダメ」
でもありません。
手前にも魚がいそうなら、その魚を散らさないように手前から丁寧に探ることもあります。
立ち位置や流れによって変えるところですね。
僕なら「ボスを怒らせる」より、まず良いコースへ通す
ナワバリの話を知ると、
「じゃあ縄張りを刺激して怒らせれば釣れるのでは?」
と思いたくなります。
実際、魚がルアーを追う姿を見ると、
「今の完全に怒ってたでしょ!」
と言いたくなるチェイスもあります(笑)。
でも、その魚がルアーを追った理由を僕らが外から完全に判断することはできません。
エサとして追ったのか。
動きへ反応したのか。
魚同士の行動と関係していたのか。
いろいろ考えられます。
なので僕なら、最初から「怒らせよう」と考えるより、
魚が定位していそうな場所へ、見つけてもらいやすいコースでルアーを通す。
まずはそこから始めます。
大きい魚を狙うなら「サイズ」ではなく「条件」を探す
今回の話を釣りへ持ち帰るなら、僕はここが一番大事だと思っています。
「大きい魚はボスだから奥にいる」
と覚えるのではなく、
大きな魚が身体を置きやすそうな条件が重なっている場所を探す。
という考え方です。
例えば、
- ある程度の水深がある
- 強い流れのすぐ横に緩い場所がある
- 大岩や倒木など身を隠せるものがある
- 淵や落ち込みなど地形に変化がある
といった場所。
もちろん、そこへ投げれば大物確定ではありません。
普通に何も出ないこともあります(笑)。
でも、
「何となく川全部へ投げる」
から、
「この場所なら魚が使いやすそうだから投げる」
へ変わるだけで、渓流の見え方はかなり変わってきます。
水の中は「階級社会」より、条件が重なった小さな世界
ヤマメやイワナには魚同士の競争があります。
成魚がいることで、稚魚の居場所や摂餌行動が変わることもあります。
産卵期には、体サイズと関係した明確な優劣が見られる場面もあります。
だから、釣り人が「ボス」「一等地」と表現したくなる感覚は、完全に的外れというわけではありません。
ただ、自然の川はもっと複雑です。
大きい魚だから必ず一番奥。
小さい魚だから必ず浅瀬。
ボスを釣れば翌日には二番手が昇格。
そんなに綺麗なルールではありません。
流れがある。
隠れ場所がある。
エサが流れてくる。
そこへ大きな魚も小さな魚もいる。
その中で、お互いの存在に影響されながら場所を使っている。
そう考える方が、実際の渓流に近いんだと思います。
そして釣り人としては、そこから、
「じゃあ今日はどこに良い魚がいる?」
と想像する。
この想像が当たって、狙った岩裏から良いヤマメが出てきた瞬間は、本当に気持ちいいです。
「ほら、やっぱいた!」
って一人でちょっと嬉しくなります(笑)。
ユウ
この記事で確認した情報
イワナ・ヤマメの採餌場所、成魚と稚魚の関係、魚同士の競争や産卵期の行動については、以下の研究資料を確認しながらまとめています。
- 魚類学雑誌|山地河川におけるイワナの採餌場所選択性
- 日本水産学会誌|小支流におけるイワナ・ヤマメ稚魚の定位点、行動圏および摂餌頻度に対する両種成魚の影響
- 魚類学雑誌|山地河川におけるアマゴの個体成長差と種内競争
- 魚類学雑誌|ヤマメの産卵習性について
- 日本水産学会誌|小支流におけるイワナ・ヤマメ稚魚の分布と成長
※魚が使う場所や行動は、魚種・サイズだけでなく、季節、水温、水量、流速、隠れ場所、周囲の個体などによって変化します。「大きな魚は必ずこの場所」「一番大きな魚が必ずボス」といった固定ルールとしてではなく、渓流で魚の居場所を考えるヒントとして捉えてください。

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