遊山メンバー
ユウ
澄んだ水をかき分けながら渓流を釣り上がっていくと、目の前の景色が急に変わり、真っ白な石だけが広がる「水のない河原」が現れることがあります。
「あれ、川が途切れちゃった?道を間違えたかな?」
不安になってその石の広場を歩いていくと、100メートルほど先で、また何事もなかったかのように豊かな水が轟々と流れている。
渓流アングラーなら、一度はこんな不思議な光景に出くわしたことがあるはずです。
いったい、あの豊かな川の水はどこへ消えてしまったのでしょうか。
この記事では、水が地中へと潜り込む現象と、再び地表へ現れる大自然のダイナミックな「水の通り道」についてお話ししていきます。
川の水が途中で消えることって本当にある?
僕たちは普段、川というものは「源流から海まで、ずっと地表を水が流れ続けているもの」だと思い込んでいます。
(※雨が降っていなくても川が流れ続ける理由については、以前の記事でお話ししましたね)
石だらけの川底へ水が入っていく
しかし、川の環境によっては、水が常に地表だけを流れているとは限りません。
川底(河床)が砂利や丸い石(玉石)など、水を通しやすい材料でできている場所では、川の水の一部、あるいはすべてが石の隙間を通って地中へと吸い込まれてしまうことがあります。
水が見えなくても「川がなくなった」とは限らない
川の水が石の間に潜り込んでしまうと、人間の目には「水がなくなった乾いた河原」にしか見えません。
しかし、水はなくなったわけではなく、僕たちが立っている石のすぐ下を、ちゃんと下流に向かって流れているのです。
地中を流れる「伏流水」とは?
このように、川底の砂や礫(れき)の層へと潜り込み、地中を流れている水のことを「伏流水(ふくりゅうすい)」と呼びます。
砂や礫の隙間へ入り込む河川水
国土交通省などの見解でも、水がしみ込みやすい土地を川が流れる際、水が地中へ潜り込んで流れる現象として伏流水が説明されています。
地表からは見えなくなっても、あくまで川の水が一時的に地下へ移動した状態であるため、河川管理上も「川の流水の一部」として扱われるほど、川との結びつきが強い水なのです。
地下水とは何が違う?
「それって、普通の地下水とは違うの?」と思うかもしれません。
実は「伏流水」と「地下水」は非常に近い関係にあり、厳密な境界線は専門分野によっても少し異なります。
簡単に言えば、伏流水は「特に川とのつながりが強く、川のすぐ下や周辺を流れている地下の水」だとイメージすると分かりやすいでしょう。
なぜ水が地面へ潜る川と潜らない川がある?
では、なぜ途中で水が消えてしまう川と、ずっと地表を流れ続ける川があるのでしょうか。
河床の砂礫と地質が関係する
水が地中へ入りやすいかどうかは、川底にどれくらい分厚く砂利や石が積み重なっているか(砂礫の厚さ)や、その下の地質、地下水位の高さなどによって決まります。
硬い岩盤がむき出しになっている川では水は潜れませんが、隙間だらけの石が分厚く堆積している場所では、水は簡単に下へと抜け落ちてしまいます。
扇状地で伏流しやすい理由
特に伏流水が発生しやすいのが「扇状地(せんじょうち)」と呼ばれる地形です。
山から平地へと川が流れ出る場所では、上流から運ばれてきた大量の砂礫が扇(おうぎ)のように広がって積もります。この砂礫の層は非常に水を通しやすいため、川の水がジュワッと地中へ浸透しやすく、一時的に川の水が減ったり、完全に水面が消えたりすることがよくあるのです。
「瀬切れ」と伏流水は同じではない
このように、表面の流水が途切れて川底の石が露出してしまった状態を「瀬切れ(せぎれ)」と呼ぶことがあります。
ただし、水が見えなくなったからといって「100%伏流水になったからだ!」と見た目だけで断定することはできません。
単純に雨が少なくて干上がってしまった(渇水)場合や、農業用水などで水が取水されてしまった場合でも瀬切れは起きるため、複数の要因が絡み合っていることが多いのです。
地下へ消えた水はどこへ行く?
石の隙間へスッと消えていった伏流水は、その後どうなるのでしょうか。
地下で一本の川になっているわけではない
「地下に巨大な空洞の川があって、そこを滝のように水が流れている」というSF映画のようなイメージを持つかもしれませんが、実際の地下の景色は違います。
伏流した水は、暗闇の中で砂や砂利、石の隙間を縫うように、ジワジワとゆっくり移動していきます。
その過程で、もともと地中にあった別の地下水と混ざり合ったり、複雑な経路を通ったりしながら、地形の低い方へと向かって進んでいくのです。
再び川へ戻る水もある
そして条件が揃えば、地中へ潜った水が、少し下流の場所で再び地表へと顔を出すことがあります。
これが、冒頭でお話しした「水のない河原を越えたら、また川が流れていた」という不思議な現象の正体です。
地下から水が現れる「湧水」の正体
このように、地下を流れていた水が再び地表へと現れたものを「湧水(ゆうすい)」と呼びます。
環境省の定義でも、地下水が自然状態で地表に湧き出したり、川などの地表水へ流れ込んだりするものを湧水としています。
伏流水と湧水がつながることもある
有名な富山県の黒部川扇状地などでは、川の水が上流で伏流して地中へ潜り、それが扇状地の下流側や海に近い場所で美しい湧水となってこんこんと湧き出していることが知られています。
ただし、「ここで消えた一滴の水が、まるでホースを通ったようにそのまま下流で湧き出している」という単純なものではなく、地中では様々な水が混ざり合いながら複雑に移動しています。
川と地下水は行き来している
つまり、川というものは「上から下へ一方通行で水が流れているだけ」ではありません。
ある場所では「川から地下へ(伏流水)」と水が潜り込み、別の場所では「地下から川へ(湧水)」と水が戻ってくる。
川と地下水は、常にお互いを行き来しながらダイナミックに繋がっているのです。
次に渓流を歩いたら、水が消える場所を見てみよう
川の水が突然消える「伏流水」と、再び現れる「湧水」の関係についてお話ししました。
「川が途切れてるから、この川はもう終わりだな」と諦めていた場所も、その石の下では冷たい水が静かに流れ続けています。
湧水や伏流水が絡む場所は、夏でも水温が冷たく安定しやすいため、ヤマメやイワナたちにとって最高の避暑地(生息環境)になっていることも少なくありません。
次に渓流へ出かけたら、川を「見えている水面だけ」で捉えるのではなく、「自分の足元のずっと下まで続いている立体的な水の通り道」として想像してみてください。
大自然が織りなす水の循環のスケールの大きさに、きっと感動するはずですよ!
「地下から湧き出た水だから絶対に綺麗で安全!」と思うかもしれませんが、野生動物の糞便由来の細菌などが混ざっているリスクはゼロではありません。自然の水を飲む際の安全な確保方法や浄水器の使い方については、必ず事前に確認しておきましょう。
昔、仲間と一緒に小さな沢を登っていた時、本当に一滴の水もない枯れ沢に出てしまって「あーあ、終わったか」と引き返そうとしました。でも、ふと耳を澄ますと、足元の石のずっと下の方から「チョロチョロ…」と水音が聞こえたんです。そのまま石の上を歩いて登っていくと、突然ドバーッと水が湧き出している泉のような場所に出て、そこに綺麗なイワナが泳いでいました。あの時の「地球って生きてる!」という感動は今でも忘れられません。
伏流水の仕組みが分かったら、次は川の始まりである「雨」の行方や、自然の水を安全に扱うためのサバイバル知識を学んでみましょう!
この記事は、以下の公的機関の資料や知見を参考にアングラー目線で再構成しています。
- 国土交通省・国土技術政策総合研究所:河川の伏流水および瀬切れに関する基礎資料
- 環境省:湧水の保全および地下水と河川水との交流に関する知見

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