遊山メンバー
ユウ
緑深い渓谷でルアーを投げながら釣り上がっていくと、目の前にドーンとそびえ立つコンクリートの壁。それを苦労して高巻き(迂回)したと思ったら、すぐその先にまた同じような壁が現れる。
「なんでこんな山奥の小さな川に、これほど多くの人工物が必要なんだろう?」
渓流アングラーなら、誰もが一度はそんな疑問を抱きながら汗を拭った経験があるはずです。
僕たちは普段、川を「水が流れる場所」として見ていますが、大雨が降った時の山の川は、想像を絶するような量の「土砂や岩」を運ぶ巨大なベルトコンベアに姿を変えます。
この記事では、山で起きた崩落がどのようにして川へ入り、なぜ恐ろしい「土石流」となって下流へ向かうのか、その大自然のメカニズムをお話ししていきます。
※安全に関する警告:大雨の時や雨の直後は、急激な増水や土石流、斜面崩壊(落石)の危険が非常に高まります。災害の痕跡を観察するためであっても、悪天候時に川や崖に近づくことは絶対にやめてください。また、砂防堰堤の上や立入禁止区域には絶対に入らないでください。
なぜ山の渓流には砂防ダムが多い?
砂防ダムの正式名称は「砂防堰堤」
釣り人の間では「砂防ダム」や「堰堤(えんてい)」という呼び方が一般的ですが、国土交通省などでは基本的に「砂防堰堤(さぼうえんてい)」という名称を使用しています。
(※水を貯める普通のダムとの明確な違いや、魚への影響については以前の記事でお話ししましたね)
山の川は水だけを運んでいるわけではない
なぜこの施設が山の川に多いのか。それは、山の渓流が「水」だけでなく「大量の土砂」を下流へ移動させるための通り道だからです。
日本の山は非常に急勾配で、もろい地質を持った場所が多く存在します。そのため、ただでさえ土砂が川へ流れ込みやすい過酷な環境なのです。
山崩れで生まれた土砂はどこへ行く?
では、そもそもその「土砂」はどこからやってくるのでしょうか。
山の斜面から谷・沢へ
山地では、大雨や雪解け水、地震、あるいは長い年月の風化をきっかけにして、山の斜面がゴソッと崩れ落ちることがあります。これが「斜面崩壊」です。
崩れ落ちた岩石や土砂は重力に従って斜面を転がり落ち、一番低い場所、つまり谷底(渓流)へと一気に流れ込んでいきます。
渓流は山の土砂を下流へ運ぶ道でもある
谷底へ落ちた大量の土砂は、そのままそこにとどまるわけではありません。
斜面で生産された土砂は、小さな支流(沢)から本流へと入り、水の力によってさらに下流へと押し流されていきます。
僕たちが立っている渓流は、山が崩れて生まれた土砂を海へと運ぶための「壮大なパイプライン」の役割を担っているのです。
山崩れと土石流は何が違う?
ニュースなどで「山崩れ」と「土石流」という言葉を聞きますが、実はこの二つは全く違う自然現象です。
斜面が崩れる「山崩れ」
「山崩れ(斜面崩壊)」は、その名の通り山の斜面の土や岩が崩れ落ちる現象を指します。急な斜面そのものがズサッと崩れる局地的な現象です。
水と土砂が流れ下る「土石流」
一方の「土石流(どせきりゅう)」は、大量の土砂や大きな岩が、雨水などの「水」とドロドロに混ざり合い、渓流や谷を高速で流れ下っていく現象です。
新幹線並みのスピードが出ることもあり、破壊力は絶大です。
山崩れが土石流につながる場合もある
「じゃあ、山崩れが起きれば必ず土石流になるの?」というと、そうとは限りません。
土石流が発生するには、急な勾配や、土砂を押し流すだけの「大量の水」が必要です。しかし、大雨の日に大規模な山崩れが起き、その土砂が濁流の川へなだれ込めば、それがそのまま恐ろしい土石流へと発展してしまうリスクは十分にあります。
土石流はなぜ途中で大きくなることがある?
土石流の恐ろしいところは、山崩れで発生した最初の土砂だけが流れてくるわけではない、ということです。
川底にすでにある土砂も動く
実際の豪雨災害などでは、上流で発生した土石流が谷を下っていく途中で、以前から川底(渓床)や川岸に溜まっていた別の土砂や岩までを巻き込み、規模を何倍にも拡大させていく例が確認されています。
大石や流木まで巻き込むことがある
普段の穏やかな流れではビクともしない車のような巨石も、土石流のすさまじいエネルギーの前では発泡スチロールのように軽々と押し流されます。
(※川の巨石がどうやって運ばれてくるのかは、前回の記事でも触れましたね)
水と土砂が一体となった塊は、倒木や大岩を次々と飲み込み、雪だるま式に破壊力を増しながら下流の集落や道路へと迫っていくのです。
だから山の渓流に砂防堰堤がつくられる
このように、山地の川は常に「土石流というモンスター」を生み出し、成長させてしまう危険性をはらんでいます。
だからこそ、その通り道である渓流に「砂防堰堤」が設置されているのです。
土砂が一気に下流へ流れるのを抑える
砂防堰堤の主な目的は、雪だるま式に膨れ上がる土石流や流木をガッチリと捕捉し、土砂が一気に下流へ流出するのを抑制・調節することです。
また、堰堤の上流に土砂が溜まることで川の傾斜(勾配)が緩やかになり、川底や川岸が削られて新たな土砂が巻き込まれるのを防ぐという、非常に重要な役割も持っています。
なぜ何基も連続している場所がある?
渓流を歩いていると、少し進むごとに階段のように何基もの砂防堰堤が連続している場所(階段式砂防堰堤)があります。
これは、その川の勾配があまりにも急で、土砂の生産・流出が特に激しい危険なエリアだからです。
国土交通省の資料などでも、急な川に複数の砂防堰堤を設けて、川全体の傾斜を階段状に緩くし、土砂の流出を強力に抑え込む考え方が示されています。
ただし、どれだけ砂防堰堤があっても、想定を超える大災害を完全に止められる絶対的な壁ではありません。大雨の際は施設を過信せず、早めの警戒・避難をすることが最も大切です。
次に砂防堰堤を見たら、その上の山も見てみよう
なぜ渓流には砂防ダム(堰堤)が多いのか、山崩れと土石流のメカニズムについてお話ししました。
渓流釣りをしていて巨大なコンクリートの壁を見上げたとき、つい「壁そのもの」にしか目がいかないかもしれません。
しかし、視線を少し上げてみてください。
両岸にはもろく崩れそうな急斜面が迫り、川底には過去の洪水で運ばれてきたであろう巨大な岩がゴロゴロと転がっているはずです。
「なるほど、この急な山から崩れた土砂が、この川を通って暴れ出す危険があるから、ここに何基も堰堤が必要なんだな」
そんな風に、目の前のコンクリートの壁と、その背後にある山の斜面・谷筋までをセットで観察できるようになると、僕たちが遊んでいる大自然がどれほどダイナミックで恐ろしい力を持っているのかが、ひしひしと伝わってくるはずですよ!
昔、大雨から数日経った沢へ入った時のことです。普段は綺麗なV字谷だった場所が、上から崩れてきた大量の土砂と大木で完全に埋め尽くされて、見知らぬ荒野のようになっていました。「もし自分がいる時にこれが起きたら…」と想像して、自然の暴力的な力に足がすくんだのを覚えています。それ以来、頭上の崖の脆さや、川底の石の動きをすごく意識しながら釣りをするようになりました。
土石流の仕組みが分かったら、次は砂防堰堤の機能や、川の石がどこから来たのかをさらに深く学んでみましょう!
この記事は、以下の公的機関の資料や知見を参考にアングラー目線で再構成しています。
- 国土交通省:土石流の発生メカニズムおよび砂防設備の整備に関する基礎資料
- 国土技術政策総合研究所・土木研究所:山地流域における土砂動態と斜面崩壊に関する研究

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