渓流を釣り上がっていくと、それまで続いていた瀬が突然途切れて、岩盤が数m下まで切れ落ちていることがあります。
その下には、周囲の川底より明らかに深そうな滝壺。
岩だらけの山の川を見ていると、ふと気になるんですよね。
「なんでここだけ、こんなに深く削れてるんだ?」
遊山メンバー
ユウ
国土地理院では、河川の流れが急な崖を落下する地形を「滝」、落下する水流によって壺状に深く掘り込まれた窪地を「滝壺」としています。
ただし、滝ができる理由は一つではありません。
岩盤の削られやすさの違い、断層による地形のずれ、火山活動でできた溶岩、崩壊や地すべり、そして川自身の侵食など、さまざまな成因があります。
この記事ではその中でも分かりやすい、「削られにくい岩と削られやすい岩の差から滝が発達し、滝壺が掘られ、やがて滝そのものが変化していく」という代表的な流れを中心に見ていきます。
渓流の滝はどうやってできる?
滝ができる理由は一つではない
川は普通、山の高い場所から低い場所へ流れながら、河床を少しずつ削っていきます。
その途中に急な段差が残ると、水はその段差から落下します。これが滝です。
では、なぜ川底にそんな段差ができるのでしょうか。
代表的な原因には、
- 侵食されやすさの違う岩石が接している
- 断層運動などで地形に高低差が生じる
- 溶岩流などが河床に段差を作る
- 地すべりや崩壊によって川がせき止められたり段差が生じたりする
- 急な山地河川の中で、川自身の侵食によって段差が発達する
などがあります。
つまり、「滝は硬い岩と柔らかい岩の境目にできる」と全部まとめてしまうのは違います。
実際、火山地域では溶岩流の縁が滝になることもありますし、断層運動が河川を横切る形で段差を作ることもあります。
硬い岩と削られやすい岩が作る段差
とはいえ、滝のでき方を理解するうえで分かりやすいのが、岩盤の侵食されやすさに差があるケースです。
川底に比較的削られにくい岩があり、その下や下流側に削られやすい岩があるとします。
川は両方を削っていきますが、削られやすい側の河床が先に低くなります。
すると、もともとは小さかった高低差がだんだん目立つようになり、急な段差へ発達することがあります。
そこから水が落ち始めれば、滝としてさらに形がはっきりしていきます。
侵食されにくい岩と、削られやすい岩がある
↓
削られやすい側が先に低くなる
↓
河床の段差が大きくなる
↓
落下水によって滝壺が掘られる
↓
滝の下側がえぐられる
↓
上の岩が張り出す
↓
岩が崩落する
↓
滝の縁が上流側へ移ることがある
※これは代表的な形成モデルの一つです。すべての滝がこの過程でできるわけではありません。
断層・火山・崩壊でできる滝もある
川底へ突然段差を作るのは、岩の硬さの違いだけではありません。
断層運動によって地盤に高低差が生じれば、そこを横切る河川にも急な段差ができる場合があります。
火山地域では、厚い溶岩流の縁や、周囲より侵食されにくい火山岩が滝の地形に関係することもあります。
山腹の崩壊や地すべりによって大量の土砂や岩が河道へ入れば、それまでなかった段差が生まれることもあります。
渓流で滝を見つけたからといって、その場だけを見て成因を決めることはできません。
滝の形だけでなく、周囲の地質や谷全体の成り立ちまで見なければ、本当のでき方は分からないということです。
滝の下だけ深い「滝壺」になるのはなぜ?
落下する水の力が一点に集中する
滝を見ると不思議なのが、その下だけ急に深くなっていることです。
まるで最初から大きな穴が掘られていたように見えますが、滝壺は川の侵食によって発達することがあります。
瀬では水の力が河床の広い範囲へ分散しています。
一方、滝では高い場所から落ちてきた水が比較的狭い範囲へ集中します。
その水流が河床へぶつかり、強い乱れを作ることで、滝の直下では周囲より侵食が進みやすくなります。
水と一緒に動く砂や石も岩盤を削る
ただし、ここで「落ちてくる水の重さだけで硬い岩に穴が空く」と考えると少し足りません。
山の川には水だけでなく、砂、砂利、小石、ときには大きな礫も流れています。
それらが乱流によって持ち上げられ、岩盤へぶつかったり、底を擦ったりします。
イメージとしては、川が運んでいる砂や石が研磨材のような役割をすることがあります。
岩盤河川の研究でも、流砂による衝突・摩耗は岩盤侵食を考えるうえで重要な作用です。
流れと石が長い時間をかけて穴を広げる
滝壺の中では、水と土砂が複雑に動きます。
その中で砂礫が岩盤へ何度も衝突すれば、少しずつ底や側面が削られていきます。
だから「滝壺の石も岩を削る?」という疑問への答えは、動いている砂礫が侵食に関わることはあるです。
では、滝壺はどれくらい深くなるのでしょうか。
これは「○mまで」と決められません。
滝の落差、流量、岩盤の強さ、砂礫の大きさと供給量、洪水、形成にかかった時間などで変わります。
さらに滝壺が深くなり、底に土砂が厚くたまると、今度はその土砂が岩盤を覆って直接の衝突を減らし、侵食を弱めることもあります。
砂や石は岩を削る道具になる一方、たまりすぎれば岩盤を守るカバーにもなる。
川の侵食は「水量が多いほど削れる」「石が多いほど削れる」という一方向の話ではないんです。
硬い岩を川はどうやって削る?
水流だけでなく砂礫の衝突が重要
岩盤を見ると、「こんな硬いものを川が削れるのか?」と思います。
実際には、ひとつの力だけで削っているわけではありません。
ざっくりまとめるなら、
- 水:速い流れや乱流が岩盤や亀裂へ力を加える
- 流れる砂や石:衝突・摩擦によって表面を摩耗させる
- 岩そのものの弱さ:亀裂・節理・風化した部分から壊れやすくなる
この組み合わせです。
岩の亀裂や風化も侵食に関係する
一枚の岩盤に見えても、内部まで完全に均一とは限りません。
岩には割れ目や節理があり、場所によって強度も違います。
そこへ流れの力が加われば、亀裂で区切られた岩のブロックが外れることがあります。
また、水に濡れて乾くことの繰り返しや、寒い地域での凍結融解などによって、岩が少しずつ弱くなることもあります。
そうして弱くなった岩へ、次の増水で砂礫がぶつかる。
すると、普段の水量ではほとんど変わらなかった場所が削られることもあります。
「石が多いほど削れる」とは限らない
流れる石が岩盤を削るなら、「砂利が多い川ほどどんどん削れるのでは?」と思いますよね。
ところが、そう単純でもありません。
砂礫が適度に移動して岩盤へぶつかる時は、摩耗を起こす側に働きます。
しかし大量の砂礫が河床へたまり、岩盤を厚く覆ってしまうと、流れてくる石が直接岩盤へ当たりにくくなります。
つまり、砂礫は「削る側」と「守る側」の両方に回ることがあります。
渓流の岩盤が場所によってむき出しだったり、砂利に埋まっていたりするのを見る時も、こうした違いを思い出すと面白いです。
滝はずっと同じ場所にあるわけではない
滝壺が下側を削る
滝は一度できたら、その場所へ永久に固定されるとは限りません。
代表的なタイプでは、落下する水と砂礫によって滝壺や滝の下側が削られていきます。
すると、滝の上側にある比較的侵食されにくい岩が、庇のように張り出すことがあります。
張り出した岩が崩れる
下側の支えを失った岩は、いつまでも空中に残れるとは限りません。
亀裂や自重、流れの作用などによって崩れれば、滝の縁そのものが少し上流側へ移ります。
そして新しい位置で、また滝壺の侵食や岩の崩落が繰り返される場合があります。
滝が上流へ後退することがある
このように、滝の位置が時間とともに上流方向へ移っていくことを、滝の「後退」と呼びます。
滝が後退すると、その下流側には岩盤が削られた峡谷が残る場合があります。
つまり滝は、ただ水が落ちる景色ではなく、谷を上流方向へ伸ばしていく侵食の前線になることもあるわけです。
ただし、すべての滝が同じように後退するわけではありません。
岩盤の種類、強度、亀裂、流量、砂礫の量、洪水の頻度、滝の形などで変化の仕方はかなり違います。
「滝は毎年○cm動く」と全国共通の数字で考えることはできません。
大雨や洪水で滝や川底は変わる?
普段動かない大石が動くこともある
普段の渓流を見ると、大きな石は何年も同じ場所にありそうに見えます。
でも洪水時の水の力は、平水時とはまったく違います。
水量と流速が大きく増えれば、普段は動かない礫や岩塊が移動することがあります。
それらが岩盤へぶつかれば侵食を進めることもありますし、滝壺にたまっていた土砂が一気に運び出されることもあります。
実験や実際の岩盤河川でも、洪水時の流れと土砂移動が地形を大きく変える例が確認されています。
洪水は河床を削り、同時に土砂を堆積させる
ただ、「洪水=全部削る」と考えるのも違います。
強い流れは岩盤や河床を侵食する一方で、流れてきた土砂を別の場所へ積もらせます。
ある場所では川底が下がり、少し下流では砂利が厚く堆積する。
滝壺でも、洪水によって中の土砂が運び出される時もあれば、新しい礫が入って埋まる場合もあります。
川は削る場所と、運ぶ場所と、ためる場所を変えながら地形を作っているんです。
一度の出水だけで地形ができるとは限らない
一度の大洪水で岩盤地形が大きく変わる例はあります。
一方で、目の前にある滝壺が「前回の大雨でできた」とは限りません。
現在見えている深い淵や滝壺は、過去の洪水を含む長期間の侵食が積み重なってできた可能性があります。
今の流量だけを見て、その地形がどれくらいの速さで削れているかを判断することはできません。
大雨後の渓流そのものは地形観察以前に危険なことがあるので、増水時の判断については雨のあとの渓流はいつから入れる?増水時の安全判断も確認してみてください。
滝の直下や深い淵では、落下水や複雑な流れによって強い乱流が生じることがあります。川は見た目より急に深くなる場所もあります。
滝壺へ泳いで入る、滝の直下へ近づく、濡れた岩盤を登って滝を越える、といった行動はこの記事ではすすめません。
次に滝を見たら「水の落ちる場所」以外も見てみよう
渓流で滝を見ると、どうしても一番目立つ水の流れへ目が行きます。
でも、次に滝へ出会ったら、その周りも少し見てみてください。
- 滝の縁はどんな岩盤になっているか
- 上と下で岩の色や質感が違わないか
- 岩に大きな亀裂や節理が入っていないか
- 滝の下側がえぐられていないか
- 滝壺の中や下流にどんな大きさの礫があるか
- 下流側に岩盤を削った狭い谷が続いていないか
もちろん、それだけで「この滝はこうしてできた」と断定することはできません。
それでも、岩盤・滝壺・礫・亀裂を一緒に見ると、川が今までどんな場所を削りながら流れてきたのかを想像しやすくなります。
滝が後退し、河床が削られ、谷壁が風化や崩壊を繰り返す。
そうした変化が長い時間続くことで、山地河川は少しずつ谷を刻んでいきます。
滝は、川が山を削っている過程の中で見えるひとつの姿なんです。
目の前の滝も「完成した地形」ではなく、削られ、崩れ、埋まりながら変化している途中かもしれません。
ちなみに大きな滝や落差は、ヤマメやイワナなど渓流魚にとって移動を妨げる自然の障壁になる場合もあります。
ただし、滝壺だから魚が多い、大物が必ずいる、という意味ではありません。
魚を見る前に、まず岩を見る。
そんな視点がひとつ増えると、いつもの渓流もちょっと違って見えてきます。
滝壺って、あまりにきれいな形をしていると「最初からここに穴があったんじゃないか」と思うくらいですよね。
でも実際は、水だけじゃなく、流れてくる砂や石、岩の亀裂、洪水まで関わって少しずつ地形が変わっていく。そう考えると、滝の下に転がっている石まで見え方が変わってきます。
次に渓流で滝へ出会ったら、落ちている水だけじゃなく、その下の岩盤も一度見てみてください。
滝の侵食が分かったら、洪水・土砂・砂防堰堤までつなげると山の川全体が見えやすくなります。
- Step 1:なぜ渓流には砂防ダムが多い?山崩れ・土石流と川の関係
- Step 2:大雨・増水でヤマメやイワナは流されない?洪水時の渓流
- Step 3:雨のあとの渓流はいつから入れる?増水時の安全判断
滝・滝壺・岩盤侵食について、主に以下の公的機関・研究資料を確認しています。
- 国土地理院「日本の典型地形 4. 河川の作用による地形」
- 国土地理院「断層運動と地形」「活断層とは何か」
- U.S. Geological Survey「Spectacular waterfalls are an often-hidden gem of Yellowstone National Park」
- U.S. Geological Survey「How Waterfalls Shape Mountain Rivers」
- 土木学会論文集B1(水工学)「一様湾曲水路における部分的に砂礫被覆した岩盤河床の侵食に関する実験的研究」
- 土木学会論文集B1(水工学)「乾湿風化を伴う流砂による岩床侵食」
- Scheingross & Lamb, Journal of Geophysical Research: Earth Surface「A Mechanistic Model of Waterfall Plunge Pool Erosion into Bedrock」
- 国土交通省「河川水難事故防止ポータルサイト」

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